素人目線で、有名なわりに読みやすいと思う哲学書『ソクラテスの弁明』を紹介します。
有名な哲学書を読みたい
私が哲学書を読む動機

めちゃくちゃ不純な動機です。
そもそも読みやすい哲学書というと、哲学者の考え方が分かりやすくまとめてある解説書や、最近書かれた哲学の著作があがります。だって古典は読みにくいから。
それでも「有名」なやつを読む方がテンションが上がる、という、私のようなタイプにおすすめするのが『ソクラテスの弁明』です。古典なのに読みやすい!
「無知の知」
私でも『ソクラテスの弁明』を読む前から、ソクラテスの存在はさすがに知っていました。プラトンの名前も聞いたことがあります。
そして、この『ソクラテスの弁明』では、かの有名な「無知の知」の内容が書かれています。どういった文脈で語られたものなのか、教養として一読の価値はあると思います。
本当に読みやすい?
『ソクラテスの弁明』の読みやすさ
哲学書なのに短編
何が読みやすいって、短編なところです。翻訳によってまちまちですが、解説を除く本文だけなら100ページ前後で読めます。脳の体力が尽きる前に読めます。
哲学書なのに会話文
ソクラテスは哲学者ですが、自分で本は書いていません。じゃあこれは何なのかというと、プラトンが「ソクラテスはこう弁論したよ」と書いたものです。なので、堅苦しい論文ではなく、話し言葉で展開されます。
『ソクラテスの弁明』の難しいところ
それなりに覚悟しておいた方がいい、読みにくい部分もご紹介します。
古代ギリシャが舞台
どんなにやさしい現代語訳がされていても、古代ギリシャの話です。文化が全然違うので、意味が分からないところがあります。固有名詞がバンバン出てきますが、正直に言います、私はけっこう読み飛ばしました。
もったいぶった言い回し
このソクラテス、一つのことを話すのにそんなに遠回りするのか!というもったいぶった話し方をします。哲学者が喋っている体裁なので仕方ありません。
なんの弁明をする話なのか
なんの弁明なのかは、読み進めれば内容が明らかになるのですが、予備知識がある方が読みやすいです。訳者によっては、解説を付けてくれています。
以下、弁明をするまでの経緯をまとめました。誤解を恐れずくだけた解説をしています。
ソクラテスは、相手の失言を誘うタイプの論破が得意なおじいちゃんです。言葉の定義や例え話を巧みに操り、現実とのズレを利用して相手を翻弄します。
政治家や文化人や職人に至るまで、おちょくるような問答を繰り返して、相手に恥をかかせてきました。ソクラテス自身は使命感に駆られて大真面目にやっているからこそ、たちが悪い。
その様子を見た若者たちが、面白がってソクラテスの真似をします。大人たちからすると、けしからん状況です。
ソクラテスは「神に対する不敬と、若者を堕落させた罪」という罪状で捕まって、裁判にかけられ死刑を求刑されてしまいます。
そして裁判官相手にも癖が出て、論破スタイルの問答をやらかします。
その裁判でのソクラテスの答弁が『ソクラテスの弁明』です。
翻訳で難易度が変わる
それはそれは古い著作なので、日本語でも色々な訳文が出ています。中には昭和の文豪が書いたのかな?くらい古めかしい翻訳のバージョンもあります。
しかしこの本、やっぱり入門書的な位置づけなのか、基本的にはどれも努めてやさしい翻訳にしてあると感じます。
『ソクラテスの弁明』おすすめ訳
とにかく「読みやすい」の観点で紹介しています。でも、漫画とか解説書ではなくちゃんと「読んだよ!」と言える範囲で。
初心者として、まずは読み切ることを目標にする場合、脚注は少ない方がいいと思っている派です。初学者向けに逐一丁寧に解説されている、という観点ではないのでご了承ください。
「電子書籍派」なら叢書ムーセイオン刊行会版
とにかく読みやすい。できるだけ自然な日本語に寄せて訳されています。
出版が電子書籍だけなので、本棚に飾って自慢することはできませんが、シンプルに『ソクラテスの弁明』を読みたい場合、値段も控えめでおすすめです。
本編の前に、この話がどんな場面なのかという解説も付いています。
「物語を読むのは好き」なら新潮文庫版
『ソークラテースの弁明』『クリトーン』『パイドーン』の3編が収録されています。名前は伸びてるけど大丈夫です。ソクラテスのことです。
『クリトーン』『パイドーン』が何かというと、弁明の後の獄中~刑執行の時の哲学対話です。私にとっては、ただただソクラテスが喋り倒している『弁明』より、後ふたつの方が面白かったです。
3編セットなので、ソクラテスの人物像もちょっとは知りたい、一連の話として読んだ方が内容入ってくるかも、という人にはおすすめです。
『ソクラテスの弁明』を読んだ感想
マシンガントークがすごい。私がソクラテスに抱いていたイメージというか、髭をたくわえて講釈を垂れてくるおじいちゃん像のまさにそれ!って感じでした。
中身がないのに威張っている人は私も苦手です。ソクラテス的には中身がないっていうか善きことを知らないって言い方をするのかな。ソクラテスが相手取るのは、そういう人たちなのですが、私ならさすがにここまで圧力をかけられたら閉口します。ソクラテスは絶対に口を閉じない。スタイルを貫くヤバい奴です。お口のチャックがぶっ壊れています。そこは素直に尊敬。
死刑が確定した後って、なんかさすがにソクラテスも怒ってるっぽいですよね!怒ってないって言ってるけど。死は恐れるものではないって言ってるけど。不正がなされる事に対して怒ってる感じなのかしら。理性的であるって難しいですよね。有罪にした人たちを憎まず、死も恐れずって、ロボットみたいで逆に哀愁があるというか、ちょっと寂しく感じました。