ぽよの居ぬ間にブログ

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【感想】ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』

本のイラスト

火刑法廷[新訳版]
(かけいほうてい)
著:ジョン・ディクスン・カー
訳:加賀山卓朗
発行:早川書房
原題:THE BURNING COURT
発表年:1937年

こんにちは、絵馬子(えまこ)です。読書感想文です。直接のネタバレはしていませんが、ふんわりとほのめかす感じで書いています。

さて、この本は密室ミステリーの古典として良作だからオススメという話を聞きました。あらすじを読むに、魔女がモチーフなのかなと思われ、魔女好きな私は興味をひかれまして、久しぶりに活字を読むことにしました。

これは私の想像力が悪いんですが、情景が全然浮かんでこない…。当時の…アメリカ、フィラデルフィアの別荘…?街並みのイメージさえ自分の頭からは引き出せないので大変でした。

情景描写として、冷蔵庫が出てくるんです。『冷蔵庫が低くうなっている。』*1と書かれていて混乱しました。もっと古めかしいお家を想像していたので、電気式であることに衝撃を受けました。動揺したんでしょうね。頭の中のフィラデルフィアに三菱の冷蔵庫を召喚してしまい、あぁチガウチガウとひとりで脳内がドタバタしてしまいました。

何でもないシーンにそれだけ読むカロリーを使うものですから、展開が緩やかな、おどろおどろしく重苦しい雰囲気でゆっくり会話が進んでいく部分が、まぁ読みづらくて。

前半部分については、登場人物の言動に「そんなもん本人に聞けばいいのに」と思ってしまう部分も多かったです。もったいぶった会話がもどかしい。目撃者の話を伝聞にして聞くことですれ違いを重ねていくいくことに面白みがあるのかもしれませんが…。

しかし、警察が登場してからは、まるで違う小説になったかのように展開が早くて、みんなペラペラ喋り始めて、それ以降私は軽快に読めるようになって楽しめました

そして、またもや私が悪いのですが、人の名前に関しての記憶力が最悪で。もう、本当に、容疑者が同じ部屋に集められるお決まりの謎解き披露シーンで、誰だか分からない人が2〜3人いましたからね。謎解きのスタートラインにも立てません。探偵失格です。

ということで、私は謎解きを仕事とせずに読んだので、事件の真相部分も面白く読めました。トリックは古典らしくシンプル。最後の仕掛けが素敵だなと思いました。委ねてくれた感じね。

この実験的な試みは好きです。後に多くの小説家が真似ているんじゃあないかしら。言ってしまえば殺人事件よりも、こちらが本命よね。小説を通してとても丁寧に書かれていて、無理筋を無理なく読ませてくる力があるなと感じました。同じ手法を使っても、下手くそ文章だと、取ってつけた感じになりそう。

謎が残る作品は好みが分かれるかと思いますが、私は大好物です。「矛盾を矛盾のまま楽しむ」というのが、私が若い頃から考えるひとつのテーマなので。ひとりの人間内で湧いた相反する感情や、形而上学上の問題、それからこういった「どうとでも読める」創作物です。その居心地の悪さから白黒つけたくなる事柄を、矛盾のまま保持してそのゾワゾワを楽しむ。無視せず両方存在させ続ける。現実世界では本物の矛盾なんてありませんから(物理学なぞを持ち出さないでいただければ)、完全に脳内だけのお遊びです。

この感覚は、全く理解できない人もいると思います。ジェットコースター的なことですね。ジェットコースターが苦手な人は、好きな人の感覚が分からないし、好きな人は苦手な人がこれを楽しめないのはもったいないなと思う。そんな感じ。私は、ジェットコースターは苦手です。

総括すると、私にとっては前半は退屈だけれど、後半は劇的な展開が多くて楽しい作品でした。後半になると、放っておいても動きそうな濃いキャラが何人かいて良かったです。

良い探偵小説はみなそうなのでしょうけれど、2回目を読みたくなる小説でした。

読んでいただき、ありがとうございました。

*1:第1章「起訴」第5節、マリーがコールド・チキン・サンドイッチを作っている場面